中国の古典文化と現代風アレンジが融合した新ジャンル「国風音楽」
C-POPトレンド「国風音楽」ってなに?
2021年頃から、中国版TikTok(抖音)をはじめとする動画配信サービスや、中国国内の音楽配信サービス「酷狗音乐(KuGou Music)」「QQ音乐(QQ Music)」を中心に、新しいジャンルの音楽が人気を集めています。
1990年代以降生まれの、Z世代から絶大な支持を集めているのが「国風音楽」。
中国の古典音楽がベースとなり、二胡や古筝、楊琴、銅鑼など民族楽器の音が現代のポップな曲調に絶妙なバランスで融合されていて、新鮮さと同時にどこか懐かしさも感じさせる、不思議な魅力があります。
その歌い方にも特徴があり、中国の伝統芸能である京劇のような高音でこぶしをきかせる節が随所に散りばめられ、中国の伝統文化が新しい音楽にアクセントを加え、見事に調和しています。
そのメロディーからは、たとえば「水墨画に描かれるような、切り立った崖がそびえたつ山河」といった大自然を思わせる、壮大なスケールの情景が自然と心に思い描かれます。
まるで時空を越えてその地に身を置いているかのような感覚に浸ることができる、抑揚のある美しいメロディーもその特徴といえるでしょう。
三国志や漢詩の世界がモチーフ 魅力的な歌詞の世界
「国風音楽」が誇るのは、歌詞の世界にもあります。
国風音楽の歌詞は多くが漢詩となっており、「江南」や「黄砂」といった日本人にも馴染みのある単語が良く使われ、中学校で学ぶ程度の基礎知識があれば、十分に歌詞の内容を理解することができるででしょう。
澄んだ夜空を突き刺す月の光、霧立つ雨の朝、きらめく水面、ほの明るいろうそくの炎といった色彩豊かな情景が自然に浮かび、季節の移ろいや花の匂いまでも感じられるような豊かな表現とともに奏でられているほか、景色などの単なる情景描写だけではなく、遠く離れた恋人の帰りを待つ想いや、戦いの前に酒を酌み交わすといった人間の情緒に触れる表現もあり、新しい音楽ジャンルを切り開いています。
また、中国語の発音がわかる場合は、歌詞が「押韻」していることにも気付くことができ、音楽を通して漢詩文化を新たに味わうことができるでしょう。
桁違いの再生回数100億回「踏山河」ってどんな曲?
さて、今回はその国風音楽の代表作のひとつともいえる楽曲「踏山河」をピックアップして、曲の魅力を紹介したいと思います。
2020年11月19に発売され、tiktokをはじめとする中国国内の音楽プラットフォームで総再生回数が100億回を超える桁違いの数字を記録した、若い世代に広く知られている楽曲です。
時は紀元前、春秋戦国時代の中国
項羽と劉邦という、日本人でも誰もが耳にしたことのある二人の決戦、垓下の戦いでの場面が歌詞のテーマとなっています。
漢軍に包囲された夜、項羽たちに聴こえてきたのは故郷「楚の歌」。別れの宴席で夜空に酒を酌み交わす項羽からは、その狂気じみた激しい感情とは裏腹な、愛すべき存在との別れを惜しむ人間らしさを感じ取ることができる、あまりにも有名なシーンです。
この曲では、その後戦いに敗れる項羽の最期までが、迫力と繊細さを併せ持つ美しさで歌詞に表現されています。
満天の星空の下、冷たく光る月の下で酒を酌み交わす情景から歌詞を追っていくと「四面楚歌」という、日本でも広く認知されている四字成語が目に飛び込んできます。
世界史や古典の授業で学んだ記憶とともに、自然とその場面が頭の中で浮かび上がることでしょう。
項羽と劉邦の戦いの場面は、国内外の映画やドラマなどで題材として多く取り扱われているためすでにイメージをもっている方も多いかと思います。
そのため、中国語が全くわからない状態でも、漢字の意味をひとつひとつ拾い集めていけば、まるで映画のワンシーンの中に引き込まれるような感覚になります。
中国の古代史や、優れた漢詩文化の魅力が現在を生きる若者から再び注目を集め、大ヒットしているということは、古代文明が新たに花開いた瞬間といってもよいでしょう。
古典楽器の音色とともに現代に生まれ変わる
楽曲「踏山河」の魅力は、歌詞の世界だけに留まりません。
アップテンポのリズムが現代的かつ、切なくどこか懐かしさを感じさせる曲調の中、随所には琴や銅鑼などの古典楽器の音がちりばめられ、ミスマッチでありながら、絶妙にバランスがとれた「国風アレンジ」のかっこいい仕上がりとなっています。
繊細で物悲しい琵琶(琴かもしれない)の音色が前面に出てくる間奏部分は、ぜひ聴いてほしい一つのポイントです。
「踏山河」を唄う新世代歌手”七叔(叶泽浩)”ってどんな人?
「踏山河」を歌う歌手の七叔(チーシュー)は、中国版TikTokで人気の火がつきました。
ハンドルネームの「七叔」で名前が知られていますが、TikTok以外のメディアの露出も増えてきた最近では、本名である叶泽浩(葉澤浩)との併記も多くなってきました(日本でも米津玄師さんが初期の頃はハチ名義、または併記していたのと同じイメージですね)。
名前:七叔。本名:叶泽浩(葉澤浩)。
1998年8月26日生まれ、出身地は浙江省麗水市。
CheerfulMusic(青風音楽有限公司)所属(2023現在)。
2019年1月8日「誰」で歌手デビュー、2020年11月に発表した「踏山河」がTikTokをはじめとする音楽配信プラットフォームで再生総回数100億回を突破、翌年5月には「半生雪」が発売後わずか2か月で26万再生回数を記録、中国版TikTokのフォロワー数は769.2万人です(2023年7月調べ)。
ちなみに私が彼の楽曲で一番最初に聴いたのは「半生雪」。
「何だこれめちゃくちゃかっこいいじゃん…!」と感動したものの、曲の情報が掴めず、半年かかってやっと曲名と歌手名にたどり着きました。
インターネットを中心に人気の彼ですが、投稿動画の大きな特徴といえば、洗面所と思われる場所で鏡の前に立ち、顔の前にスマホを持って歌う姿。
ファンの間では「七叔といえばこれ」といったお馴染みのスタイルですが、スマホで顔のほとんどが隠れているため、神秘のベールに包まれた彼は多くの人から「どんな顔なんだろう」と注目が集まっていました。
七叔(中国語で「七番目のおじさん」という意味)のハンドルネームと、楽曲の古風な曲調、その落ち着いた歌い方、また独特のこぶしの効かせ方から自然と連想されるのは中年の男性像。しかし実際は、華奢でどこか頼りなさげな、今時の若い青年というイメージギャップもまた彼の魅力のひとつかもしれません。
最近では顔出しも解禁し、少しずつメディアに出演する回数も増えてきました。
日本ではまだ決して認知度が高いとはいえない七叔。
2023年6月にはInstagramのアカウントも開設され、中国国外への進出を感じさせる勢いです。
控えめで謙虚な話し方の中にも、音楽に対する静かな情熱が垣間見えるのが素敵です。
新しいのにどこか懐かしさを感じさせる国風音楽の魅力は、もっとたくさんの人の心に届くはず。
七叔のこれからの活動と、今後の楽曲提供にも注目していきたいですね。
参照元:
百度百科(https://baike.baidu.com/item/%E8%B8%8F%E5%B1%B1%E6%B2%B3/55253898?fromModule=lemma-qiyi_sense-lemma)
百度百科(https://baijiahao.baidu.com/s?id=1724979325796125804&wfr=spider&for=pc)
Wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%9A%E6%BC%A2%E6%88%A6%E4%BA%89)
YouTube「无锡的声音3」(https://www.youtube.com/watch?v=E6Am28cwfQY)
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